招待講演 量子ビームのモノづくりへの活用と将来への期待

  • 計測計測
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  • くるまの電動化に向けたパワーコントロールユニットや二次電池の改良が目標
  • オペランド状態解析と3次元非破壊構造解析を中心に技術開発
  • 今後は単なる材料解析から部品の解析に注力

量子ビームの特徴を利用して研究を進める

 トヨタ自動車では、2050年にはエンジンだけで動く車をほぼゼロにしようという目標を立てています。その中で、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車のパワーコントロールユニットや二次電池を改良していくことを目標に研究を進めています。
量子ビームの高強度であること、物質透過能があること、高輝度であること、スピンがあることなどの特徴を利用し、SPring-8やKEKPF、J-PARCなどで研究を進めてきました。

リチウム二次電池や排ガス浄化触媒などでの応用例

いくつかの応用例を紹介します。
リチウム二次電池が高温で過熱した時の反応をあらかじめ知っておくことは重要です。そこで新たに開発したXAFS-XRD同時計測セルを利用して、室温から450℃まで加熱しながらニッケルの価数や構造の変化を調べました。その結果、ニッケルの価数も構造変化も、不可逆的に変化していることがわかりました。
リチウム二次電池は負極の表面にSEI被膜があります。被膜の形成には最初の充電条件が深く関係しており、その条件を決めることは重要です。従来見ることが難しかったのですが、最近、われわれは中性子反射率を使って、充放電しながら膜厚や組成の変化を調べています。
また、排ガス浄化触媒の白金の状態をXAFS測定で測定しながら排出ガスの分析を同時に行うことで、白金の表面での反応がわかるようになってきました(図1)。従来はブラックボックスであった触媒での貴金属の変化がわかるようになっています。
リチウム二次電池の急速充放電時における、リチウムイオンの挙動をリアルタイムで見てみました。時間変化を追うと、リチウムの濃度むらが生じており、それを画像としてあらわすと、充放電条件とリチウムイオンの分布に偏りが生じていることがわかりました(図2)。
将来のパワーモジュール内の接合材料は、現在よりも高温に耐える必要があります。接合材料の候補の1つが銅ナノ粒子です。銅ナノ粒子の接合材を使用した時の熱疲労をX線CTで観察することにより、接合材料の疲労亀裂の内部の進展挙動がわかってきました。
われわれは、結晶粒レベルでの継続変形、強度を見るために走査型3次元XRD顕微鏡を開発しました。マイクロビームを走査しながら回折パターンを撮り、結晶構造を3次元に再構成するものです。金属変形や、結合材料の中での応力発生などを見ていこうと考えています。
最近では、単に材料を見るだけでなく部品そのものを解析したいという希望が増えてきているので、今後力を入れていきたいと思っています。

機能の向上やサポートの充実にも期待

放射光でのリアルタイム性や、中性子での空間・時間分解能の向上を期待しています。また大量のデータの処理や解析についてユーザーレベルで使いやすくしたり、オペランド計測などを一般ユーザーが簡単にできるようにしたりといったサポートが増えてくれるとありがたいと考えています。

図1 Pt/Al2O3触媒にNO-CO混合ガスを流して昇温しながら、Ptの酸化数変化と触媒活性を調べた。

図2 放電時のリチウムイオンの偏りのイメージ

堂前 和彦

株式会社豊田中央研究所
分析部量子ビーム解析研究室