大型研究施設/ソフト・データ KEK-PFにおける物質・材料科学と元素戦略への取組み

高エネルギー加速器研究機構(KEK)フォトンファクトリー(PF)は、1982年に放射光発生に成功したX線領域で日本初の放射光施設です。PFはSPring-8に比べて比較的エネルギーの低いX線を利用できます。その強みを生かすための改造を継続的に行うことにより、現在でも国際的競争力を保っています。 PFは数多くの国家プロジェクトに参画しており、元素戦略プロジェクトもその1つです。特に電子材料と磁性材料の拠点においては、PFスタッフがPIとして研究に参画し、新材料の評価・解析、材料コンセプトの確立、材料評価手法の開発などに力を入れています。 電子材料拠点では、エレクトライドの材料開発に取り組んでいます。PFでの光電子分光実験により、理論的に予言された電子状態が実際に実現していることを明らかにしました。この研究は、新規アンモニア触媒の開発にも役立っています。一方、PFでは材料評価方法の開発も精力的に行っています。 電子材料は薄膜となるケースが多いのですが、これまで薄膜の精密構造解析はほとんど行われていませんでした。特殊な透過配置によるX線回折実験を行い、精密な吸収補正、多数の測定点収集、基盤からの反射の分離など基本的なことを積み重ねることにより、薄膜構造解析手法を確立することができました。 KEKでは、放射光だけでなく他の量子ビームも提供しています。水素ドープの鉄系超伝導体の研究では、放射光による精密な結晶構造情報に加え、中性子では磁気構造を、ミュオンでは磁性相と非磁性相の割合の決定などを迅速に行いました。このようなマルチプローブによる材料研究は、今後ますます重要になっていくでしょう。材料創製グループ、電子論グループと協力し、放射光、中性子、ミュオン、陽電子を利用した精密測定・解析を迅速に行うことにより、量子ビーム利用を材料開発に役立てていきたいと考えています。

PFとPF-AR(アドバンストリング)。PFは39ステーション、PF-ARは8ステーションある。

村上 洋一

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所放射光科学研究施設