招待講演 3GeV放射光が変える材料科学と産業活用 ~東北放射光計画の現状とこれから~

  • 計測計測
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  • 空間分解能は5nm、輝度は100倍、コヒーレンスは100倍に
  • SLiT-Jの輝度は世界の3GeV放射光施設を上回る
  • 年間に6000時間利用できる安定光源をめざす

次世代放射光源は物の見え方を変える

最適化された低エミッタンス電子ビーム光源である次世代放射光源によって、物の見え方が変わります。放射光のいちばんの利点は元素選択性です。また高輝 度性、コヒーレント性の活用で、機能の可視化が進んでいくと考えています。個別計測から機能を見る統合計測へ進むべきとして取り組んできて、最近になってそれを見ることが可能になってきました。
放射光の偏光を活用して、100ナノ分解能で磁区の性能を可視化するなど、その先駆けは始まっています。また燃料電池でも、マイクロメートルの分解能でコンピュータトモグラフィとXAFSを組み合わせて、元素の化学状態選択で3D可視化されています。全固体リチウムイオン電池でも、クラックによる反応進行への影響を3次元的に可視化しています。
そのような可視化は、現状では非常に時間がかかりますが、次世代放射光では短時間でできるようになります。次世代放射光では、空間分解能は100nmから5nmに、輝度は100倍、コヒーレンスは100倍になりますので、材料科学に大きく寄与できると考えています。

東北放射光施設計画SLiT-J

低エミッタンスの放射光は、電子蓄積リングの進化によって生まれたものです。現世代から次世代へは、偏向電磁石の数(Bend数)が2個から多数個になっています。SPring-8-II計画ではBend数が5つのものを計画しています。われわれが進めている東北放射光施設計画SLiT-J(図1)は、ユーザー側が必要とする光源性能を検討した結果、4つの偏向電磁石からなる DDBA(DoubleDouble-Bend Achromat)を採用しています。
SLiT-Jの輝度は、世界の3Gev放射光施設を上回っています。軟X線領域での光源性能は海外の約10倍になります。SLiT-Jでは、産学連携による、持続可能なイノベーションエコシステムとしてビジネスエコシステムを考えています。学術の協調と会社どうしの競争をしっかりとやっていきます。
3GeV放射光は外殻電子を中心に、幅広い領域をターゲットにできます(図2)。SLiT-Jではイノベーションを加速するために、世界にも類を見ない年6000時間利用できる安定光源をめざしています。効率よく進めるために、計測装置はスタンドアロンで配置し、ビーム調整のための時間ロスを排除してすぐに実験ができるようにしています(図3)。

今後の展開

イノベーションエコシステムの実現に向けて、われわれは学術、産業界だけでなく、NIMSや産総研、経団連や銀行の方々とも議論を進めています。分析会社による利用支援をシステムとして取り入れ、ビジネスエコシステムのプラットフォーム強化をめざしています。
次世代放射光は科学の方法を一変させ、仮説検証サイクルの高速化を加速します。われくわれは元素戦略プロジェクトなどとともに、材料科学の産業活用を推進していきたいと考えています。

図1 SLiT-Jの建設予想図

図2 3GeV放射光は主に外殻電子をターゲットとし、軽元素までカバーする。

図3 ハイスループットを高めるビームライン(BL)とエンドステーション(ES)