構造材料領域 二次元および三次元時間分解・その場観察による金属材料の凝固現象の解明

  • 計測計測
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  • 金属材料の冷却・凝固組織形成過程を2次元と3次元でその場観察可能に
  • 炭素鋼などの凝固組織形成は従来理解とは異なっていた
  • 時間分解の透過像、回折像の観察とMD計算からマッシブ的変態を裏づけ

高温金属が冷える過程を直接観察したい

これまで、金属の凝固・鋳造現象は室温まで冷却された後の組織を観察して凝固現象を推定してきました。それゆえ、未解明の部分が多く残されています。凝固過程を直接観察し、金属材料の組織がどのように成長しているのかを理解したいという要望は、学界だけでなく産業界からも寄せられています。組織は金属材料特性に大きな影響を及ぼすからです。

SPring-8で見えたデンドライト成長過程

金属材料が凝固していく過程を調べるため、SPring-8の硬X線領域の高輝度単色光を使いました。材料を透過し、高温での輻射の影響を受けずに、時間分解・その場観察ができます。固液の密度差を検出できますので、反応性の高いチタン合金以外のほとんどの実用合金は観測が可能です。
透過像と回折像の観察を併用すれば、組織だけでなく、結晶構造とその方位が確認できます。また、アクチュエーターを導入すれば、高温での変形過程の組織変化が観察できます。EDS検出器を挿入すれば、元素分析もできます。ニッケル基超合金のように10元素からなるサンプルでも、それぞれの元素が固・液にどう分配しているかを直接測定することが可能です。試料を回転させながらCTを用いて3次元観測もできるようになり、μmから1mmスケールまでの空間を、時間を追って観測できるようになりました(図1)。

新規凝固過程〈マッシブ的変態〉を直接観測

炭素鋼の冷却過程では液相とδ(BCC)の「包晶反応」によりγ(FCC)が生成すると教科書などにも記載されてきました(図2上)。しかし、0.45%炭素鋼をSPring-8でその場観察すると、最初にδのデンドライト(樹枝状結晶)がし成長、過冷状態から一瞬でγに変わりました。1mm厚試料で3次元的に観察しても変態の形態は同様でした。
また、一方向凝固の変態過程を詳細に観察すると、δから微細なγがマッシブ的な変態で出てきて、そのすぐ後ろに粗大化したγも観察できました。このことから、定常凝固になっても、マッシブ的に固相変態でγからδに一気に変わっていくことが支配的だと考えました。4D-CT観察において試料回転と同期したX線回折像を分析してみると、変態後は多結晶になっていることがわ かり、BCCとFCCの最密面が一致する確率が高いことを確認しました。
これらをふまえて、BCCで核生成が起こり、その後全体的なひずみを緩和するためにγ相で核生成が連続して起こると考えています(図2)。
これらの観察結果は、工学的な問題解決にも役立つはずです。現在は、凝固組織をどう制御するか、粗大化を制御するためにはどういう結晶組織にすればよいかといった研究に着手しています。

図1 2次元および3次元時間分解・その場観察による金属凝固現象の全体像

図2 これまでの組織形成の理解「包晶反応」(上)と、その場観察からみえてきた「マッシブ的変態」(下)

安田 秀幸

京都大学 大学院
工学研究科材料工学専攻

連名者(共著者)

森下浩平(京都大学)、吉矢真人・柳楽知也(大阪大学)

参考文献:

  • [1] T. Nagira et al, Metall. Mater. Trans. A, 45A (2014) 1415.,
  • [2] G. Zeng et al, Acta Mater. 83 (2015) 357.
  • [3] K. Yamane et al, Metall. Mater. Trans. A, 46A (2015) 4937-4946.

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