大型研究施設/ソフト・データ SPring-8における物質・材料科学と産業応用
SPring-8は1997年10月から供用開始し、生命科学、物質科学から産業応用に至るまで、さまざまな課題解決に貢献してきました。低エミッタンス、高エネルギーX線光源といった特徴を利用して、物質領域から材料、製品に至るまで、多様な領域をカバーする手法を用意しています。一方で、次の光源に向けた議論も進めています。次期光源では、マルチスケールでの計測技術がなお一層進展すると期待しています。
物質科学での最近の研究成果の例としては、永久磁石材料の保磁力機構解明に向けた磁区解析、シリコン基板上の高Ge濃度シリコン結晶の可視化、実燃料電池の劣化過程の可視化、KUMADAIマグネシウム合金に関する研究、リチウムイオン電池での酸化・還元軌道の可視化などがあります。
産業応用に向けた取り組みとしては、メゾスコピック領域の3D/4Dイメージングと高エネルギー X線の利用があります。長年、メゾスコピック領域を調べる手法がなく、分解能ギャップが存在するといわれてきました。これを解決するために、X線ナノCTの開発を進めています。
高エネルギー X線の利用は、製品をターゲットにすることをめざしています。高エネルギー X線散乱によって、電池の中のリチウム濃度分布を調べた例があります。充電過程においてセパレータ部分に若干リチウムが残っているのを見ることができました。電池容量の損失の原因になっていると見られています。
この2つの取り組みは、物質領域から製品領域に至る幅広い構造の可視化を、シームレスに達成することが可能になることを示すものです。
われわれはマルチスケール計測を推進して学術と産業を結ぶことを考えています。また階層的な視点のもとで、放射光、中性子、計算機科学の連携は今後ますます重要になっていくと考えています。