大型研究施設/ソフト・データ J-PARCにおける元素戦略の取組み
J-PARC(大強度陽子加速器施設)のMLF(物質・生命科学実験施設)では、加速器からパルス陽子ビームを受け取り、中性子とミュオンのビームを発生させて、物質科学と生命科学の実験を行っています。放射光と比べると、中性子は強度で6~7桁下がりますが、その特徴を生かした研究が行われています。
最近の成果をいくつか紹介します。
中性子が水素やリチウム等の軽元素に敏感であることを利用し、全固体セラミックス電池でのリチウムの電導パスが正確に決められました。
高性能タイヤの開発にも関係しています。中性子が軽元素、特に水素に対して非常に敏感であること、また軽水素と重水素を見分けることを利用した実験です。
磁性材料の基礎物性評価に関する成果もあります。一般に磁石の性能を決めるパラメータには、保磁力、キュリー温度などがあり、それらに対応する微視的な量があります。中性子ブリルアン散乱法で、それらのパラメータを決定しました。
MLFには高温高圧のビームラインがあります。高圧でつくられる物質の起源を探るために役立っています。具体的には、地球の内部構造や鉄中の水素、低温高圧における新しい氷の相の発見などの研究があります。
1つの金属原子に9つの水素が結合した物質群が高圧合成でつくられ、その試料の中性子回折測定を行いました。新たな高密度水素貯蔵材料、超伝導材料、および固体電解質としての展開に期待しています。
世界初となるエネルギー分散型のイメージング装置も2年前から稼働し始めました。磁気イメージングやブラッグエッジイメージング、共鳴吸収イメージングが行えます。
より効率的に施設を利用していただくために、3年間のビームタイムを保証する長期課題枠を設けました。また、施設のスタッフが申請の初期から関わるリエゾン(課題提案者)の制度を導入しました。積極的に連携し、試料環境やデータ解析環境を相談しながら進める制度です。