招待講演
重希土類元素フリー熱間加工ネオジム磁石の開発と
自動車駆動モータへの実用化
- 実験
- 熱間加工磁石の特徴を生かす開発を行った
- ハイブリッド車(HEV)の駆動モータに使用可能な板磁石の量産化を達成
- 磁石材料の開発とモータ設計技術の融合で、HEV用駆動モータの重希土類フリー化を達成
重希土類フリー磁石が求められている
今後、電動車両が増えると、モータに搭載されるネオジム磁石の需要も急速に増大します。ネオジム磁石にはその使用環境に応じて重希土類元素を添加していますから、重希土類元素の需要も今後急速に増えていくことになります。
一方で、重希土類元素は採算性のある鉱山が中国に偏在していることや、採掘において環境負荷が高いという問題があります。重希土類フリー磁石の開発は、そのような状況下でなされているさまざまな取り組みの中の1つです。
完全重希土類フリーで量産実用化を実現
今回は磁石材料の開発と、本田技術研究所のモータ設計技術の融合によって、重希土類元素を使用しないハイブリッド自動車の量産を可能にしました。
ネオジム磁石の現在の主流は焼結磁石ですが、私たちは熱間加工磁石の特徴を生かす開発を行ってきました。熱間加工磁石は結晶粒が微細であるため、重希土類元素に頼らずとも耐熱性を上げるのに有利です。ただし従来技術のままでは、一般的に駆動モータに使用される板状に成形できないこと、磁気特性の面でも保磁力が不足していることなどの課題がありました。
ネオジム磁石は微細組織をもっていますが、成形条件の制御でさらに微細化を行いました。それにより耐熱性の面でも改善する結果が見られました(図1)。粒界相量を変えて組織解析を行った結果、磁石の粒界相の厚みを調整することによって保磁力向上に効果があることが明らかになりました。従来から予想されてはいましたが、近年の観察技術の進歩によって実証されました。
粒界相の組成を調査した結果、粒界相の組成がネオジムリッチになるほど、言い換えると鉄比が減るほど保磁力が向上することが明確になりました。結晶粒間の磁気的な孤立状態が高まったことが保磁力向上の原因だろうと考えています。
磁石形状に関して、今回、ハイブリッドの駆動モータに使用可能な板磁石の量産化を達成しました(図2)。本田技術研究所が今回開発したモータでは、磁石形状やローター構造の新設計によって磁石にかかる逆磁界を低減しています。新設計のモータの磁場解析の結果を見ても減磁が起きていません。
今回の開発では、板磁石の成形を可能にした上で、粒界相の制御などによって、ジスプロシウムが4~5 wt.%入ったレベルの焼結磁石の特性まで、完全重希土類フリーで量産実用化を達成することができました。
要求特性は引き続き高い目標へ
従来、HEV用駆動モータには、ジスプロシウムが8~10 wt.%入った磁石が必要でした。最近は、重希土類元素の使用量抑制の流れの中で、高残留磁束密度、Br・低保磁力の流れになっています。この傾向はモータの冷却能力の向上、磁気回路改善、磁石の厚肉化などによって実現しています。
今後は同等特性でコスト低減、また保磁力は維持してモータ小型化のための高磁力化、また資源リスクを抑えたままで高耐熱性化のための高保磁力化の方向など、引き続き要求特性は高い目標に向かって変化すると考えています。
日置 敬子
大同特殊鋼株式会社