磁性材料領域

プロジェクト名:元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>(磁性材料研究拠点;ESICMM)

量子ビームを用いた希土類永久磁石の研究

  • 計測計測
  • 計算計算
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  • 量子ビームを用いて磁気構造や磁気的相互作用エネルギーを可視化
  • X線顕微鏡 高分解能磁気イメージングによるネオジム磁石の保磁力解析
  • 中性子回折によるDy置換ネオジム磁石の希土類サイト選択性の解明

高性能磁性材料開発のために新規評価・解析法を

電気自動車や発電機に使われるモーター用希土類永久磁石材料には希少元素が使われています。希少元素をなるべく使わずにさらなる高性能磁性材料を開発するため、微細構造制御などが研究されています。それゆえ、磁性材料内部の新規評価・解析法にも高い性能が求められます。
磁性材料の特性は、原子レベルに起因する特性(飽和磁化・磁気異方性定数・キュリー温度)と、もっと大きな粒界相や磁区構造に起因する特性(保磁力・残留磁化)があります。原子レベルの結晶構造解析や磁気構造解析には中性子回折やX線回折が、磁区構造や結晶粒径、組織構造には中性子小角散乱やX線顕微鏡が有効です。

X線を使った、新規評価・解析法

薄片化した試料をX線顕微鏡で観察し、15nmという高い空間分解能で局所領域の磁気的な顕微分光ができる装置を開発しました。新規材料開発などで、単結晶が得られなくても、X線MCDから多結晶体の一部の基礎物性値を分析できます。
そのほかにも、特定の元素を識別して磁区観察ができますので、磁石のジスプロシウム(Dy)のみ・ネオジム(Nd)のみの磁区観察も可能です。Dy磁区の定量解析データを使って、「Dy粒界が拡散していると磁壁エネルギーが増大し、それが高保磁力化につながる」という知見が得られました。
さらに、X線顕微鏡を使った、磁気エネルギーの直接可視化も可能です。この手法で、熱間加工磁石の磁気双極子相互作用エネルギーが低減する様子を観察できました(図1)。Nd-Cu浸透処理なしの磁石では、外部磁場をかけられると周りの粒子の影響で非常に大きな反磁場がかかる様子、そして、結晶粒界にNd-Cu浸透処理をするとそれが低減される様子がわかりました。高保磁力化のメカニズムが解明できました。

中性子を使った、新規評価・解析法

中性子回折を利用すると、原子レベルの構造解析も可能です。この手法の成果として、Dy含有ネオジム磁石の結晶構造の解析があります。結晶構造には希土類元素が入れる2種のサイトがあります。4fと4gです。Dyがどちらに入るのかこれまで実験的に確認されていませんでした。そこで、Dy濃度を変化させ、2つのサイトのどちらに入りやすいかを中性子回折実験で確認しました(図2)。
実験結果を再現できる熱力学CALPHAD法、第一原理計算の生成エネルギー計算を使ったモデルも構 築でき、この成果を使えば、サイト占有率が計算から求められるはずです。今後、磁気異方性を高める物質設計への指針を与えることに貢献できるのではないかと考えています。

図1 Nd-Cu合金浸透による磁気双極子エネルギー変化
Nd-Cuで熱間加工すると、高保磁力化することが知られている。外部磁場をかけたときに減磁のため磁気双極子エネルギーが変化するが、その変化がNd-Cu浸透処理で低減されている様子が視覚的にわかるようになった。

図2 Dy含有ネオジム磁石の構造解析
(Nd1-xDyx)2Fe14Bの結晶構造(左上)。中性子回折パターン(左下)と放射光粉末回折の同時解析によりDy元素のサイト占有率を求めた。実験結果と整合性の良い熱力学CALPHAD法と第一原理計算を融合した方法が構築できた(右上)。

小野 寛太

高エネルギー加速器研究機構

連名者(共著者)

矢野正雄・庄司哲也・真鍋明・加藤晃(トヨタ自動車)、上野哲朗(関西光科学研究所)、阿部太一(物質・材料研究機構)、土居抄太郎(東京大学)、Paul Scherrer Institut; 斉藤耕太郎・Joachim Kohlbrecher、Forschungszentrum Jülich;Zhendong Fu・Vitaliy Pipich、Helmholtz-Zentrum Berlin;Uwe Keiderling

参考文献:

  • K.Ono; まてりあ, 56,199(2017).
  • T.Ueno et al.; AIP Advances 7,056804(2016).
  • Saito et al.; J. Alloys. Compounds 721,476(2017).
  • T.Ueno et al.; Scientific Reports 6, 28167(2016).

関連Web:

http://ono.kek.jp