触媒・電池材料領域 イオン伝導体の物質開拓と全固体セラミックス電池の開発
- 計測
- 実験
- 従来の電解液より高いリチウムイオン伝導率をもつ固体電解質を発見
- リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池を開発
- 中性子構造解析により固体電解質の3次元的なイオン伝導経路を解明
次世代電池の開発のカギを握る“電解質”
電気自動車やプラグインハイブリッド車、スマートグリッド(次世代送電網)が社会に浸透するためには、容量・コスト・安全性のいずれの面においても、現在のリチウムイオン電池を超える次世代電池の開発が不可欠です。そして、そのカギとなるのが電池の構成材料の1つである“電解質”です。
現在のリチウムイオン電池は、電解質として有機電解液が用いられていますが、われわれは固体の電解質を用い、正極と負極を含めた材料をすべて固体で構成する全固体電池の開発に取り組んできました。固体の電解質を用いることで、従来の電解液系ではなしえないバイポーラ積層構造など、既存の電池パック設計の常識を覆すコンセプトが可能になり、電池のさらなる高容量化・高出力化が期待できます。また、全固体であるため電池の安全性も高まります。
従来のリチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池
われわれは、有機電解液に匹敵するイオン伝導率をもつ材料Li10GeP2S12を見いだしました。さらにその後、最高のイオン伝導率をもつLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3や、広い電位窓をもちリチウム金属負極の電解質として利用できるLi9.6P3S122、また、より安価で合成が容易なSnSi系材料Li10+δ[SnySi1-y]1+δP2-δS12も見いだしています。
これらの電解質を用い、不燃性や安全性の面で期待されていた全固体セラミックス電池を製作し、現在のリチウムイオン電池よりもはるかに高速充電と高出力が本質的に可能であることを実証しました。開発した全固体電池は、既存のリチウムイオン電池より、室温で出力特性が3倍以上であるとともに、有機電解液を用いるリチウムイオン電池の課題である低温(-30℃)や高温(100℃)でも優れた充放電特性を示しました。
また、中性子構造解析により、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が 3次元骨格構造をもつ物質であり(図1)、その骨格構造内にリチウムが鎖状に連続して存在していること、室温で3次元的な伝導経路をもっていることが、高いリチウムイオン伝導性の実現に寄与していることを明らかにしました。
開発した全固体電池は、既存のリチウムイオン電池のほか、次世代電池として開発が進められている各種の電池と比較しても、はるかに優れた出力とエネルギー特性をもつことが明らかになりました(図2)。
菅野 了次
東京工業大学 物質理工学院
参考文献:
- [1] Kamaya, N. et al., Nat. Mater. 2011, 10 (9), 682-686.
- [2] Kato, Y., et al., Nature Energy 2016,16030.
- [3] Sun Y., et al., Chemistry of Materials , 2017, 29(14), 5858-5864.