研究拠点ハイライト 磁性材料領域 元素戦略磁性材料拠点が創出した
永久磁石の材料科学とその応用

  • ネオジム磁石を超える永久磁石をめざし、1-12系Sm-Fe-Co単層膜を合成
  • 実測と第一原理計算により、希土類磁石材料のデータベースを拡張
  • 原子モデルの保磁力理論を構築

ネオジム磁石を超える材料候補の発見

永久磁石はいろいろなところに使われていますが、近年、電気自動車で需要が急速に拡大し、風力発電にも需要の拡大が予測されています。それに対応して高性能磁石を大量生産するには、希少元素をあまり使わず、動作温度でもっと高い磁力を出せる永久磁石が求められています。
この分野では、元素戦略プロジェクトの前半期末に、われわれは1-12系Sm-Fe-Co材料で、ThMn₁₂構造のきわめて高純度な単結晶薄膜をつくり、従来のNd₂Fe₁₄Bを大きく超える飽和磁化を測定しました[1]。また、300K以上では、従来のどの永久磁石用化合物よりも高い磁化を示し、200℃での磁化と磁気異方性を種々の物質と比較したところ、両方の数値が、200℃まで使用できるDyを多量に含んだ従来のネオジム系磁石を超える領域にあることがわかりました。
この1-12系Sm-Fe-Co材料 を何とか実用の材料にしたいというのがわれわれの願いです。

熱力学のデータベース構築に向けて

永久磁石というのは単相では保磁力が出ません。表面付近で発生する磁化反転が内部へ進行するのを食い止めるため複相組織にしていますが、従来のネオジム磁石ではディスプロシウムを加えることで磁化を減衰させています。そこで、複相組織を制御して物質本来の究極的な性能を引き出すことを今期の目標にしています。そのための学理としては、材料創製プロセスの指針となる「熱力学のデータベース」と、材料組織制御の指針となる「原子モデルの保磁力理論」があります。
まず、熱力学のデータベースについて紹介します。磁石の材料というのは本質的に非常に微細な構造をもつ非平衡組織です。そのような組織が生成するダイナミックな過程をモデル化する研究がかなり進んでいます。ある組織の生成と物性値との関係、例えば拡散係数、表面エネルギー、生成エネルギーの範囲などを推定できるようになってきたのです。これに実測値を加えて、データが整備されてきました。
次の段階では、機械学習を使って、逆問題的に組織から物性値を推定できるようにしたいと考えています。現在は、磁石材料を記述する記述子の開発などを進めています。

電子論から微細単結晶の磁化過程を記述

原子モデルの保磁力理論も、この拠点の研究で生まれたものです。従来の保磁力理論は連続体モデルであって、交換長(数nm)未満の組織を議論することができませんでした。これに対して、原子モデルの保磁力理論では、原子モデル、つまり原子配置と各原子の磁性をもとにしており、さらに熱励起の効果を取り込んでいます[2]。
例えば、Nd₂Fe₁₄Bの各格子点に磁気モーメントを置いた原子スピンモデルをつくり、スピン間の相互作用を第一原理計算で求めて議論する。それによって、ダイナミクスを計算したり、熱統計量として、磁化や異方性などを計算したりしていく。あるいは、磁化反転のエネルギーバリアを計算して保磁力を議論することができるようになってきています。その結果、保磁力の温度変化を熱活性化過程ありとなしで比べられるわけで、これは非常に大きな進歩です。
こうしたモデルと現実材料との接点となる界面の構造[3]についても、種々の界面について大規模な第一原理計算シミュレーションを行って、微量元素を入れることで構造がどう変化するかなどを計算しています。また、1-12系についてもスピンモデルをつくっており、磁気異方性の温度依存性なども実験とかなり合うようなレベルに達しています。

原子モデル保磁力理論の構築
ここでは、磁石化合物の結晶10nm立方の中にある約8万3000個のスピンの運動を計算し、磁石の使用温度で緩和時間や自由エネルギーがどのくらい変化するかなどを調べている。

広沢 哲

元素戦略磁性材料研究拠点
代表研究者
物質・材料研究機構

連携機関:

東北大学、産業技術総合研究所、東京大学、東京大学物性研究所、京都大学、高エネルギ加速器研究機構、高輝度光科学研究センター、名古屋大学、北陸先端科学技術大学院大学、東京工業大学、九州大学、東北学院大学、兵庫県立大学

参考文献:

関連Web: