構造材料領域

プロジェクト名:ポスト「京」重点課題(7)「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」における高信頼性構造材料分野

原子・組織レベルの凝固・粒成長プロセスの大規模シミュレーション

  •  
  • 計算計算
  •  
  •  
  • 構造材料の製造プロセスを可視化して各段階の現象を理解する
  • 分子動力学法で原子レベルを、フェーズフィールド法で組織レベルを可視化する
  • 古典理論では説明できないさまざまな特異現象が生じていることを発見

実用材料の複雑な製造プロセスを可視化する

 多くの金属材料の製造プロセスでは、液相からの凝固、粒成長を経て、その後さまざまな加工熱処理が行われ製品がつくられています。経験あるいは実験により、各過程はかなりの精度で制御されていますが、実際に何が起こっているかを知るのはなかなか難しいことです。
われわれは、現象の可視化をはかりつつ、凝固組織形成や結晶粒成長における未解明現象を理解するために、分子動力学(Molecular Dynamics : MD)とフェーズフィールド(Phase Field : PF)の2つの手法を使って、シミュレーションを進めています。前者では原子レベルを、後者では組織レベルを見ていきます。

従来の理論からはずれる現象を多数見いだす

MD法を使って、純鉄の約1200万個の原子の凝固過程の配列解析を行いました。BCCの核が発生するのは当然ですが、詳細に見ると、まず液相中に多面体構造が出て、すぐにそれがBCCに変わります。さらに10億個の原子で解析を行い、核生成の過程を丹念に見ていくと、理論則から導き出されたマッケンジー・プロットと呼ばれるランダム分布からずれる領域が必ずあることがわかりました。その原因として、過剰エネルギーの低い双晶粒界が、核発生の段階で特異的に多く発生することを突き止めました。また、ニッケルとアルミニウムの合金でも、本来はFCCの核が発生すべき組成領域でも、まず準安定なBCCの核が発生することを明らかにしました。このように、原子レベルで見ると、古典理論では表現できない局所的な特異現象がいろいろ起きていることが明らかにになっています。
PF法は非平衡過程におけるさまざまなパターンを表すのに非常に適した手法です。場の中で界面が動いて複雑な形状ができるときに、秩序変数(オーダーパラメータ)の分布の時間的発展を見ることで複雑な形状を再現します。例えば、デンドライド生成の過程では、系の固相を1、液相を0として、秩序変数の時間発展を解いていけば、その値の分布が複雑な組織を表現します。時間発展は系の自由エネルギーが常に減少するように変化するので、原則的にはこれに基づいて解きます。
PF法を使って、デンドライドの競合成長を見ると、従来考えられてきたことと違うことも見えてきました。普通、BCC やFCCの金属では<100>方位に優先成長します。温度勾配と<100>が平行な図2の緑のデンドライトは、傾いた赤いデンドライトに勝つと教科書に書かれていますが、必ずしもそうでないことがわかりました。
デンドライドの3次元競合成長もスパコンを用いた大規模解析によりシミュレートすることができます(図3)。また、流体と拡散場を連成して解くことで、未解明なさまざまな現象を再現できるようになりました。例えば、デンドライドができることで液相の流れがどう変わるかが現在議論されていますが、これもPF法でデンドライドを生成した後で流体計算して導き出される透過率を用いた解析によって明らかにされようとしています。
MD法およびPF法による研究結果を紹介してきましたが、超大規模計算ができるようになったために、MD法で出てきた結果を初期状態として直接PF法で解くことができるようにもなっています。異なるスケールの計算手法がカバーできる範囲が重なりつつあるので、マルチスケール解析の概念が大きく変わってくるでしょう。

図1 純鉄の核生成・凝固過程を超大規模MD計算でシミュレーション(10億原子)

図2 デンドライトの2次元競合成長

図3 デンドライトの3次元競合成長(Al-Cu合金)

澁田 靖

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻

連名者(共著者)

高木知弘(京都工芸繊維大学)、大野宗一(北海道大学)、S. K. Deb Nath・毛利哲夫(東北大学)

参考文献:

  • [1] T. Takaki, et al.; J. Crystal Growth, 442, 14 (2016).
  • [2] Y. Shibuta, et al.; Nature Communications, 8, 10 (2017).
  • [3] M. Ohno, et al.; Phys. Rev. E, 96, 033311 (2017).

関連Web: