研究拠点ハイライト 電子材料領域 元素戦略「電子材料研究拠点」:最近の進歩から

  • 多存元素を活用した透明p型アモルファス半導体を新たに開発
  • 普遍的な不純物である水素の役割の解明をめざす
  • IGZOの特性向上にも水素が重要であることを明らかにする

溶液塗布だけでできる透明p型アモルファス半導体の開発

電子材料領域は広範囲の材料を対象としており、使用される元素もきわめて多くなります。本日は、最近の代表的な成果に絞って紹介します。
まずは、室温でこれまで実現できなかった液相から合成できる透明p型アモルファス半導体を創出しました(図1)。透明p型半導体の研究は20年来続けてきましたが、材料の設計指針を転換し、Cu-Sn-Iという3成分に着目したことで実現したものです。透明p型アモルファス半導体の電子の移動度は、すでに実用化されているIGZO(In-Ga-Zn-O)に代表されるn型アモルファス半導体に匹敵します。
この新しい半導体はプラスチック基板上への成膜が容易にできるので、曲がる透明な電子回路の開発や、有機EL、ペロブスカイト型太陽電池の正孔輸送層などへの応用が期待されています。ちなみに、材料のI(ヨウ素)の生産では日本は世界第2位の産出国で、多存元素の活用につながります。

高感度水素測定装置TDSを開発

 われわれの拠点では、従来行われてこなかった電子材料研究の中から、重要なテーマを見つけて研究していこうというスタンスをとっています。その1つが水素です。水素はさまざまな材料の中に普遍的に存在していますが、本格的に解析して、材料特性にどう効いているかを研究したプロジェクトはありませんでした。
まず、水素原子Hoは陽子1個、電子1個からなりますが、電子1個の状態は不安定なので、自然界では単独で存在することはあまりありませせん。電子を失って水素イオンH+になったり、電子をもらって水素化物(ヒドリドイオン)Hになったりしています。NMRのケミカルシフトが水素の電荷を評価するのに広く使用されていますが、化学シフトの電荷の対応は1:1ではありません。HであってもOHの同じような位置に出てくることがあります。これがHの存在が見過ごされてきた原因だと感じています。われわれはIGZOの水素不純物と特性劣化の関係に着目しました。まずは、従来の装置では感度が足りないので、ppmオーダーの検出感度をもつ昇温脱離ガス分析法(TDS、図2)を開発しました。TDSは加熱して試料から出てくる水素を調べるので、ガス漏れが出ないように装置の材質を選択し、またレーザーで加熱、さらに真空度を高くして排気速度を抑えています。
この装置の検出限界をS/N比3と仮定すると、1cm×1cm×1㎛の 薄膜試料から1cm³あたり9.5×10¹⁵個の水素原子が定量できます。ZnOの薄膜のように今まではまったく測定できなかったものができるようになったわけで、これからはいろいろな解析に使っていこうと考えています。

IGZO-TFTの特性を損なう水素の役割を解明

IGZOは2003~04年にTFT(薄膜トランジスタ)をつくり、2012年くらいから実用になってきて、2015年にIGZO-TFTで動作する大型有機ELテレビが家電量販店に出ました。2016年には65インチ4Kディスプレイができましたが、まだまだ問題があるのです。TFTは1個1個の画素をスイッチさせているので、つねに光が当たって、ほとんどの時間はn型の場合マイナスの状態になっています。ところが、閾値が移動して制御が困難になることが起こります。
その原因はバンドギャップ(電子が存在できない領域)だと考えられてきましたが、実験的な証拠は得られていませんでした。われわれはまず、SIMS(二次イオン質量分析計)でIGZO薄膜の水素原子を測りました。その結果、1020cm-3の水素が含まれていることに驚かされました。SPring-8の硬X線でもその存在が確認されました。そこで、薄膜のスペクトルをとり、透過と反射の波長を調べました。そのデータをもとにしてシミュレーションで構造を求めたところ、酸素欠損サイトにHが入っている、つまりOHとHが存在することがわかりました(図3)。
次に、OHとHのどちらが害を及ぼしているかを計算したところ、Hが大きく効いているという結果が出てきました。さらに、TDSで測定したところ、金属イオンとくっついたHがオリジンであることがほぼ証明されました。問題はHをどうやって除去するかですが、原因はわかったので対処の仕方はあるだろうと考えています。

図1 透明p型アモルファス半導体
室温下で、溶液コーティングで製膜にでき、印刷も可能。電子の移動度はn型アモルファス半導体に匹敵する。

図2 試作した高感度水素測定装置TDS

図3 IGZO薄膜の構造モデル。
酸素欠損サイトを占めるHが特性変化を起こしていることを明らかにした。

細野 秀雄

元素戦略電子材料研究拠点代表研究者
東京工業大学

連携機関:

物質・材料研究機構、高エネルギー加速器研究機構、東京大学

参考文献:

  • [1] T.Hanna et al. Rev. Sci. Instrum. 88, 053103 (2017).
  • [2] J.Bang et al. Appl. Phys. Lett. 110, 232105 (2017).
  • [3] Y. Hinuma et al. Nat. Commun. 7, 11962 (2016).

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