研究拠点ハイライト 触媒・電池材料領域 京大 触媒・電池元素戦略研究拠点が
創出した学理とその応用

  • 実験と理論計算科学のインタープレイで学理を追究
  • 担体が関わる新機構に基づく革新的な三元触媒担体材料
  • 超濃度電解液の新展開—高性能と高い安全性

希少元素の減量と代替をめざす

われわれの拠点の目的は希少元素フリーの触媒・電池を創製するための方法論を確立することと、そのための化学反応を支配する指導原理を明確にすることです。対象となる元素は、触媒では白金、パラジウム、ロジウム。生産量の70%程度が自動車の排ガス浄化触媒に使われており、白金族の減量あるいは代替が課題となっています。
電池でのターゲット元素は言うまでもなくリチウムです。リチウムはチリ、アルゼンチンといった限られた地域で80%が産出されており、需要が急増していますので、いつまで安定供給されるかわからない状況です。したがって、リチウムを別の元素に替えていくことが必要です。

パラジウムの量を10分の1まで減量

まず、自動車触媒を代表する三元触媒への取り組みをご紹介します。ガソリン車の排ガスの中に含まれるハイドロカーボン、不完全燃焼の一酸化炭素、窒素酸化物の3つを同時に除去することから三元触媒と呼ばれるのですが、それらの除去にロジウムやパラジウムが使われているのです。
これらの触媒反応の中で最も重要なのはNOxの還元です。従来、NOxの還元は金属粒子の表面にNOが吸着し、窒素と酸素原子に解離。COがその酸素を使ってCO₂になり、窒素が出ていくという反応機構で考えられていました。したがって、貴金属粒子を高分散化して表面積を担保することが非常に重要だと言われてきました。
われわれは、理論計算と実験を進 めて、CO等の酸化には、貴金属だけでなく、担体の酸素欠損が重要な役割を果たすMars vanKrebelen(MvK)機構が重要であることを見いだしました。MvK機構では、COは酸化され、また酸素の欠損サイトは酸素分子により再酸化されます。そこで、酸素欠損サイトがNOにより再酸化されるような担体候補を探しました。そして、Sr3Fe2O7で酸素欠損サイトが再酸化され、N₂分子が発生することを突き止めました(図1)。さらに、 Mn修飾六方晶YbFeO₃が、低温で高酸化活性を示し、同機構に基づいてNOの低温還元を進ませることがわかり、パラジウムの量を5分の1~10分の1に減らせる可能性が出てきたのです。

電極、溶媒でも革新的な材料を開発

電池の研究では、LiをNaに転換し、エネルギー密度の高い材料を得ることをめざしています。これまで、われわれは「世界の材料開発センター」と言われるほど多くの材料を開発してきました。そして2014年には、従来、使われなかった硫酸塩の物質「アルオード石」で、3.8Vの高電圧を実現しました。しかも、1分以下の超高速充放電ができることがわかったのです。
負極材料でも、チタン、アルミニウム、炭素からなる「MXene」を開発しました。MXeneは高いサイクル特性とレート特性を示し、高速充放電を実現できることがわかりました。
溶媒の研究では、高電圧、高レートが期待できる超濃厚溶液の考え方を提唱し、リチウムイオン水系電解質ではこれまでになかった3Vを超える高電圧系フルセルが可能なことを実証しました(図2)。
また、超濃厚溶液をナトリウムイオン電池に拡充し、TMP(リン酸トリメチル)を使ったNaFSA/TMPが、高寿命、高性能なNa電池となることを示しただけでなく、不燃性、消火性のある、絶対安全電池へと展開しています。

図1 新規触媒担体Sr3Fe2O7-δは非常に高い酸素貯蔵能をもっている。

図2 濃厚水溶性電解質により高電圧を達成

田中 庸裕

元素戦略触媒・電池材料研究拠点
代表研究者
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻

連携機関:

東京大学、自然科学研究機構分子科学研究所、九州大学、熊本大学、東京理科大学

参考文献:

  • [1] H. Asakura et al, J. Am. Chem. Soc., 140, 176 (2018), DOI: 10.1021/jacs.7b07114
  • [2] K. Beppu et al.; Catal. Sci. Technol., 8, 147 (2018), DOI: 10.1039/C7CY018.
  • [3] A. Yamada et al.; Nature Energy, published on line, DOI:10.1038/s41560-017-0033-8

関連Web: