招待講演 今求められる大学発イノベーション

  • 大学・学問のあり方は変わらなければならない
  • 学術的な成果をもとに価値を生み出していくことが必要
  • 学問分野を再構成し、新しい領域を開拓することが産学連携の肝

大学発イノベーションの観点における日本の状況

学問が取り組むべき重要な課題は数多く社会に存在します。最近は、新たな領域を開拓する人材の育成を含めて、本格的な産学官連携が重要であるという議論が盛んになされています。今の知識社会の中で、大学あるいは学問のあり方は変わらなければならないという社会的要請があります。
ドラッガーは著書『断絶の時代』の中で、教育と研究に加えて、社会への貢献、すなわち知識を行動に移し、社会に価値をもたらす第3の機能が大学には加わったと書いています。
この新しい機能の内容は次のようなものです。大学が社会に価値をもたらすことが期待されるにつれ、これまでの専門分野の論理ではなく、社会的課題を中心に学部の再編成を行うことが求められるようになってきました。社会的課題に対応するための学際的なアプローチの教育においては、専門家の仕事に敬意をもつべきことを教える必要があります。一方で専門分野の教育においては、1つの専門分野だけでは何も実現できず、他の専門知識とともに価値に結びつけることを教えなければなりません。
そういった変革に、欧米の有力大学は積極的に対応しています。図1はアメリカの政治学者ストークスの考えに従い、動機によって研究を分類したものです。分類には、根本原理を追究するかしないか、用途を考慮するかしないかという2つの軸が設定されています。日米のトップ1%の研究者を調査した結果、右上の「パスツールの象限」に該当する研究は、アメリカが33%、日本が15%でした。
この結果は、大学発イノベーションという観点から見て、日本では大きな懸念が生じ得る状況にあることを示しています。日本でも、論文発表だけではなく、学術的な成果をもとに価値を生み出すところまで実践する必要があると、われわれは考えています。
国家戦略として重要な高性能材料の創製を目標としつつ、関連する幅広い研究コミュニティの連携を深化させ、そして国際的にも高い水準にある学問分野の再構成によってまったく新しい研究アプローチを生み出す。さらに価値創造の実践にまで踏み込むことを、元素戦略プロジェクトは掲げたものといえます。
学問分野の再構成を行って新しい領域を開拓する、その芽となるような課題を探索していく活動を、われわれは分野を超えて進めていきたいと考えています。それが産学連携の肝でもあります。

企業と大学の連携のありかたが変わる

企業の研究開発部門と大学との関係は、研究成果や技術を企業がどう取り込むかだけではなく、企業が将来展開しようとする事業戦略に必要な技術シーズを協働でつくることを企業側は望みはじめています。さらに製造部門や事業部門まで、大学に大きな役割が期待されています(図2)。
大学の技術をもったベンチャーが大学から生み出されてアライアンスの先となる、そして重要な部分を担っていくところまで、今後は連携のあり方が必要になってくると考えています。

図1 ストークスに従った研究プロジェクトの分類に関する日米比較調査
出典:科学技術政策研究所、一橋大学イノベーション研究センター、ジョージア工科大学「科学における知識生産プロセス:日米の科学者に対する大規模調査からの主要な発見事実」、調査資料-203(平成23年12月)

図2 これまでの産学連携と今後の産学連携モデルの在り方
※ある企業提供の資料を基に文部科学省が改変

坂本 修一

文部科学省 科学技術・学術政策局
産業連携・地域支援課