招待講演 量子ビームとスーパーコンピュータの連携活用による
低燃費タイヤの開発

  • 計測計測
  • 計算計算
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  • タイヤゴムの物性・機能を生み出すゴム内部の構造とダイナミクスの把握が重要
  • 軟X線、ミュオン、中性子などを複合的に利用して研究を進めた
  • コンピュータシミュレーションも活用して実験と組み合わせた

タイヤの性能向上と次世代技術開発に必要なこと

タイヤの性能向上には、グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性能の3つを向上させる必要があります。しかしこれらは相反的な関係にあります。3大性能すべての向上と、次世代技術開発のためには、従来見えなかったゴムの内部構造を把握して制御することが必要です。
タイヤのゴムの素材は、10数種類以上の素材からなる非常に複雑な構造をしています。ナノ領域からマクロ領域までの階層構造が複雑に相互作用して、ゴムは機能を発現しているのです。また、ゴムは幅広い時間スケールで機能しています。そこでゴム内部の構造が生み出す応答特性、ダイナミクスを知ることが非常に重要です。

量子ビームを利用してゴムのダイナミクスなどを研究

これまでの構造解析だけでは、グリップ、燃費、摩耗を切り分けることがなかなかできませんでした。しかし、例えば時間方向で見たら、グリップと燃費を分けられるのではないか(図1)。それを見るためのツールがSPring-8やJ-PARCの量子ビームです。軟X線、ミュオン、中子などを複合的に利用しながら、ゴムの階層構造とダイナミクスの研究を行ってきました。
その結果、ゴム内部のシリカ粒子は一次凝集構造と二次凝集構造などでネットワークを形成していることがわかりました。また、応力がずっと発現する歪領域ではポリマーが非常に強く配向することで強度を上げることや、シリカ階層構造の変化がポリマーに多彩な変化をもたらしてゴムの強度を向上させていること、ヒステリシスロスとシリカの構造変化が密接に関係していること、高次の凝集構造の存在が低燃費性能に影響していることなどがわかってきました。
また、シリカ粒子をつなぐ界面ポリマーが物性に大きく関与しているのではないかと考え、J-PARCの中性子準弾性散乱からシリカ界面吸着ポリマーのダイナミクスを調べ、反射率からその構造を調べました。その結果、シリカ界面吸着ポリマーのダイナミクスと、シリカとポリマーの相互作用がゴムの破壊などと非常に密接に関係していることがわかりました。
このような実験結果に基づき、コンピュータシミュレーションも活用することで、破壊を抑えることができる結合剤の最適な分子長がわかりました(図2)。その結果、グリップ性能と低燃費性能が最高クラスでありながら、従来なら摩耗性能が10%程度上がればよいところが、50%も上げることに成功しました。

タイヤゴム内部のさらなる理解に向けて

グリップ性能、燃費性能、耐摩耗性能はともに変化していきます。性能変化の抑制や次世代の技術開発を進めていくためには、有機物質の化学状態をもっと知る必要があります。そのために高輝度の軟X線を活用したいと考えています。
コヒーレントX線回折イメージングなどを応用して、さらにゴム内部構造のローカルな部分で起きていることを詳細に調べていくことで、タイヤゴム内部の理解がさらに進むだろうと考えています。

図1 ゴム材料中の時間・空間の階層構造と、タイヤ性能(推定)との関係

図2 結合剤と破壊の関係をシミュレーション