磁性材料領域

プロジェクト名:JST革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

電圧制御による超省電力スピントロニクスデバイスの
材料開発と放射光による界面磁気機能の解明

  • 計測計測
  • 計算計算
  •  
  •  
  • IT機器の低消費電力化には不揮発性メモリ(MRAM)用材料開発が有効
  • 電圧磁気効果の機構をSPring-8の放射光と第一原理計算で解明
  • 軌道磁気モーメントに加え、磁気双極子Tz項が電圧で変調する機構を発見

MRAMの性能アップをめざして

電力を消費せずに書き込んだ情報を維持できる不揮発性メモリ(MRAM)があれば、IT機器の消費電力は大幅に削減できます。情報書き込み時の省エネをふまえると、磁気トンネル接合を用いたスピントロニクスデバイスを電圧書き込み式で使うデバイスが有望視されています。ただ、実用化するためには現在の5~10倍の性能が必要です。そこで、SPring-8での実験と理論計算から電圧磁気効果の機構を明らかにする研究を行いました。

電圧磁気効果の機構を放射光で調べる

電圧磁気効果の機構を明らかにするために原子数層分の厚さの金属磁石をはさんだデバイスを作製しました(図1)。SPring-8による放射光X線分光実験を行い、XMCD法とサムルール解析をすると、デバイス内部の軌道磁気モーメントやスピン磁気モーメント、そして磁気双極子Tz項が評価できます。本研究では、これらの物理量が外部電圧によりどのように変化するかを調べました。
Fe3原子層とMgOのデバイスでは、酸化還元反応によって磁気異方性の変化が起きるかを確かめました。強磁性を示すPt1原子層をはさんだデバイスからは、電圧により格子間隔が変化して磁気異方性が変わっているかをEXAFS振動から確認しました。これらにより酸化還元反応や格子緩和の影響は極めて小さいことがわかりました。
Co1原子層をはさんだデバイスは元素選択的にCoのみプローブして、軌道磁気モーメントの変化を捉えました。FePtとMgOを使ったデバイスでは、同様に元素選択的にPtのみプローブして磁気双極子モーメントTz項の変化を捉えました。Tz項は強磁性体中の電気四極子により生じる物理量です。
これらの結果から、電圧磁気効果の機構は、3d遷移金属では軌道磁気モーメント機構が支配的で、5d遷移金属では軌道磁気モーメント機構と電気四極子機構の足し算になっていることがわかりました。特にこれまで知られていなかった電気四極子機構の関与は重要な発見です。(図2)

スピントロニクスデバイス材料の開発につなげる

第一原理計算で、それぞれの機構が電圧磁気効果にどのように寄与しているかを分解してみると、FePtの電圧磁気効果を示す指標140 fJ/Vmはそれぞれ逆符号の軌道磁気モーメント機構と電気四極子機構が相殺された結果であるために140という小さな値になっているとわかりました。
本研究で明らかになった電圧磁気効果の発現メカニズムを考慮して、電圧磁気効果が大きいスピントロニクスデバイス材料開発を戦略的に進めていこうと考えています。

図1 大型放射光施設SPring-8を使用した実験設計
右の電子顕微鏡断面写真から、1原子層レベルで精密に制御された狙い通りのサンプルかできていることを確認。このような高品質素子を使うことで、第一原理計算との厳密な比較が可能になった。

図2 電圧磁気効果を第一原理計算で分解
電圧磁気効果は、電子増減(軌道磁気モーメント)や再配列(磁気双極子Tz項)により生じていることがわかった。

三輪 真嗣

大阪大学 大学院基礎工学研究科

連名者(共著者)

鈴木義茂・Frédéric Bonell ・松田健彰・塚原拓也・河辺健志・吉川晃平・縄岡孝平・田村英一・後藤穣(大阪大学)、野崎隆行・湯浅新治(産業技術総合研究所)、鈴木基寛・中村哲也・小谷佳範・豊木研太郎(高輝度光科学研究センター)、辻川雅人・白井正文(東北大学)、宝野和博・大久保忠勝(物質・材料研究機構)

参考文献:

  • [1] T. Maruyama et al. ; Nat. Nanotechnol. 4, 158 (2009).
  • [2] T. Kawabe et al. ; Phys. Rev. B 96, 220412(R) (2017).
  • [3] S. Miwa et al. ; Nat. Commun. 8, 15848 (2017).

関連Web: