電子材料領域

プロジェクト名:元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>(電子材料研究拠点:TIES)

ワイドギャップ半導体IGZOと
ZnO中の格子間水素の電子状態
~酸化物半導体の特性変化の解明とその解決を目指して~

  • 計測計測
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  • 半導体IGZOにおける水素の電子状態を測定
  • IGZOと同じ局所構造をもつZnOの水素状態を測定
  • 酸化物半導体の特性変化に与える水素の役割の理解へ

酸化物半導体中の水素が物性を左右

インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)から構成される半導体IGZOは、スマートフォンやパソコンモニター、大型有機ELテレビ、タブレットなど、すでにさまざまな家電製品のディスプレイ駆動用透明半導体として実用化されています。
しかし、IGZO薄膜トランジスタを製品として使う際、印加電圧や光照射によって動作特性が変化し劣化することが問題になっており、水素がその特性に関して重要な役割を果たしていることがわかっています。IGZO中の水素状態を知ることは、劣化原因の解明と解決法を明らかにすることにつながります。

水素の電子状態をミュー粒子を用いて調べる

酸化物半導体において、水素はH+、H0、Hの荷電状態をとり、電子ドナーとしてふるまいます。水素の電子状態を調べることで、水素による物性変化の機構を明らかにしたいのですが、IGZOは非結晶であるため、解析手法が限定されます。そこで、われわれは、IGZOおよびIGZOと同じ局所構造をもつZnOにおいて、水素がとるべき位置や荷電状態を、加速器から得られる正ミュー粒子(μ+)を用いたミュオンスピン緩和(μSR)法で調べました。水素のシミュレーターとして正ミュー粒子をIGZOに注入することで、その電子状態を知ることができるのです。実験ではJ-PARC(大強度陽子加速器施設)の分光器(図1)とスイスのPSI-LEM施設の分光器を用いました。
その結果、IGZO(絶縁体組成)中でミュー粒子はすべて反磁性状態(閉殻のH+またはH)をとることが明らかになりました(図2)。H+は電気陰性度の大きな酸化物イオンとO-H状の結合を生成していると思われ、Hは周辺原子と結合を作らずに孤立した状態にあると思われます。結晶でも非結晶でもこの結果は変わりません。
ZnOにおいては、単結晶試料を入手でき、印加磁場の結晶軸に対する方位から、超微細構造定数の対称性を測定することがJ-PARC MLFでできるようになりました。これにより、ミュー粒子の形成する浅い水素状態の位置を実験的に決定したところ、この対称性は、ZnOボンド中心サイトとアンチボンドサイトと一致し、同じ局所構造をもつIGZOの水素位置と、おそらく同じことが示唆されました。
IGZO中のミュー粒子が反磁性状態を取ることは、この物質で水素が電子ドナーとしてふるまうことの直接的な証拠といえます。
こうした機能性酸化物の水素状態の測定を通して、酸化物中の水素の役割に関する一般的な理解をめざしています。

図1 J-PARK MLFの汎用μSR分光器ARTEMIS(アルテミス)

図2 J-PARCでの多結晶体IGZO測定。

小嶋 健児

高エネルギー加速器研究機構

連名者(共著者)

平石雅俊、岡部博孝、幸田章宏、門野良典(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所およびJ-PARC MLF)、Andreas Suter,Thomas Prokscha,Zahar Salman(PSI LMU)、大橋直樹(物質・材料研究機構)、井手啓介、松石 聡、神谷利夫、雲見日出也、細野秀雄(東京工業大学)

参考文献:

  • [1] J. Bang, S. Matsuishi and H. Hosono, Appl. Phys. Lett. 110, 232105 (2017).
  • [2] K.M. Kojima et al. preprint (2017).
  • [3] M. Hiraishi, K. M. Kojima, M. Miyazaki, I. Yamauchi, H. Okabe, A. Koda, R. Kadono, S. Matsuishi, and H. Hosono. Phys. Rev. B., 93, 121201(R), (2016)

関連Web: