電子材料領域 レーザー光電子顕微鏡が明らかにする、物質の未知の性質 ~酸化物表面・界面における強磁性の可視化~

  • 計測計測
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  • 2.6nmという世界最高の分解能をもつ紫外レーザー光電子顕微鏡の開発
  • LaAlO3/SrTiO3界面とSrTiO3表面の強磁性を可視化
  • 常識を覆す酸化物の物性を証拠づける成果

世界最高の分解能をもつ全く新しい光電子顕微鏡

ナノレベルの微細な構造や磁性などの物性を明らかにするために、一般的には放射光を用いた光電子顕微鏡(PEEM)が用いられ、その空間分解能は約20 nmまで到達しています。
われわれはPEEMをさらに高度化し、紫外レーザーとPEEMを組み合わせた全く新しい光電子顕微鏡(レーザー PEEM)を開発しました。連続波のレーザーを用いることで、放出した電子同士のクーロン反発によって空間分解能が悪化する問題(スペースチャージ効果)を極限まで抑え、空間分解能2.6nmを達成することができました。

酸化物の強磁性をレーザーPEEMで確認

ランタンアルミネート(LaAlO3)とストロンチウムタイタネート(SrTiO3)という2つの酸化物は、ともに電気を通さない絶縁体ですが、これらを貼り合わせたLaAlO3/SrTiO3薄膜の界面では、LaAlO3の厚みが増すのにともない、電子が高速で運動できる2次元的な層(2次元電子ガス)が生じ、超伝導となると同時に強磁性体になることが知られています(図1)。レーザーPEEMを用いて調べたところ、LaAlO3/SrTiO3薄膜界面は30~40nmの磁区ドメインで埋め尽くされていることが明らかになり、強磁性の磁石ができていることがわかりました。
一方、真空中でフラッシュアニール(高速熱処理)したSrTiO3も表面に2次元電子ガスを生じることが知られています。フラッシュアニールしたSrTiO3も図2のように、30~40nmの強磁性ドメインサイズをもつことが明らかになりました。強磁性転移の温度は、900K程度でした。これらの結果は、LaAlO3/SrTiO3薄膜界面およびSrTiO3の表面が、強磁性を示すことの証拠であるといえます。
これらの酸化物の強磁性を応用することで、レアメタルを使わずに、低コスト・大容量の磁気記録デバイスを開発できる可能性があります。

図1 LaAlO3/SrTiO3界面のバンド構造(左)とアニールしたSrTiO3表面のバンド構造(右)

図2 a:アニールしたSrTiO3表面のPEEM像。表面ステップ構造が黒い線として観測されている。
b:真空中でフラッシュアニールしたSrTiO3表面の磁気円2色性PEEM像。
c:aとbを重ねた図(黒い線がステップ構造)。
d:Tcより高温での1000KのSrTiO3表面のPEEM像。磁気円2色性が消失している。

辛 埴

東京大学 物性研究所

参考文献:

  • [1] T.Taniuchi, Y.Kotani, S.Shin, Rev. Sci. Instrum.86, 023701 (2015).
  • [2] T.Taniuchi, Y.Motoyui, K.Morozumi, T.C.Rödel, F.Fortuna, A.F.Santander-Syro, S. Shin,

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