触媒・電池材料領域

プロジェクト名:JSTさきがけ「新物質科学と元素戦略」、科研費 新学術領域「ナノ構造情報のフロンティア開拓」、科研費 新学術領域「複合アニオンン化合物の創製と新機能」

ヒドリドイオン“H”導電体の物質設計 ~全く新しい作動原理をもつ蓄電・発電デバイスの開発に向けて~

  • 計測計測
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  • 実験実験
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  • ヒドリド(H)がイオン導電する新物質LSLHOを開発
  • LSLHOの結晶構造の決定
  • H導電体を応用した新規エネルギーデバイスの開発可能性を示唆

Hを電荷担体とした導電体

通常、水素のイオン導電では、プロトン(H)が担体となり、酸化物やポリマー、固体酸などのさまざまな物質系で、多くのH導電体が開発されてきました。 一方で、水素の陰イオンであるヒドリド(H(図1) ) は、酸化物イオン(O2-)やフッ化物イオン(F)と同程度のイオン導電に適したイオン半径と、非常に強い還元力をもつことから、H導電体を蓄電・発電デバイスに応用することで、高エネルギー密度の新規エネルギーデバイスが実現できる可能性があります。このようにHは電荷担体として優れた特徴があるにもかかわらず、1970年代にアルカリ土類金属水素化合物のH導電性が指摘されて以来、本格的な物質探索は行われてきませんでした。

新物質LSLHOから見えてきた応用への可能性

われわれは、化学的に安定な酸化物の結晶格子内でHをイオン導電させることをめざし、HとO2-が共存するアニオン副格子をもつ酸水素化物を対象にして、物質探索を行ってきました。酸水素化物にすることで、格子内のHの量や配列を変化させることが可能になります。構成元素には、Hより電子供与性の強いランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、リチウム(Li)を採用し、Hからの電子供与を抑制することで、電子伝導の寄与のない輸率1のH導電体La2-x-ySrx+yLiH1-x+yO3-y(LSLHO)を見いだしました。
物質探索を行う中でわかってきたことですが、Hは、より電子供与性が強いLiのようなカチオンと副格子を形成すると、電子をもらってHの状態で安定化し、負の電荷を保ったままイオン導電することが可能になります。
また、中性子回折および放射光X線回折により、LSLHOの結晶構造を決定しました(図2)。Hは、酸水素化物の格子内において、価数の低いカチオンの周辺を選択的に占有する傾向があることがわかりました。こうした結果を物質設計の指針として、今後、より高いイオン導電性をもった物質探索を継続して行っていきます。
将来的には、H導電体を蓄電・発電デバイスに応用することを考えています。そのため、今までは高圧下でLSLHOを合成してきましたが、より簡便につくれるように、現在は常圧下での合成方法の確立に取り組み、合成時の圧力がどういった影響を与えるかについても検討を行っています

図1 新たな電荷担体としてヒドリド(H)に着目

図2 La2-x-ySrx+yLiH1-x+yO3-y(x=0, y=0,1,2)の結晶構造

小林 玄器

分子科学研究所

連名者(共著者)

菅野 了次(東京工業大学)

参考文献:

  • [1] G. Kobayashi, M. Yonemura, I. Tanaka, R. Kanno et al., Science, 351, 1314 (2016).
  • [2] A. Watanabe, G. Kobayashi et al., Electrochemistry, 85(2), 88-92 (2017).
  • [3] M. C. Verbraeken, J. T. S. Irvine et al., Nat. Mater., 14, 95-100 (2015).

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